その恋、逃亡中。

三日後、くるみは信二の会社に電話をかけた。相手の交換手には、はっきりと信二の名を告げたのだが、電話に出たのは聞きなれない声であった。

「霜村信二さんをお願いしたいのですが……」

「霜村君ですか?いませんよ」

相手の声は無愛想であった。

「あのう、どこに出かけていらっしゃるのでしょうか?」

「いや、そうじゃないんですがね……」

「ではお休みですか?」

「休みと言えば休みですが……。ところで、あなたどういうご関係のかたでしょう?」

「は?あのう、知人ですが…」

くるみは、顔に血がのぼってくるのがわかった。羞恥ではなく、屈辱のためらしかった。『どういうご関係……』という言葉が、彼女の自尊心を傷つけたのである。


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