その恋、逃亡中。

信二の会社の同僚は、彼が『いない』『休みと言えば、休み』だと言った。これは事件以来、彼が会社に姿を現していないことを意味していよう。

恐らく、会社には刑事が行ったのだろう。そして、彼の知人、友人の住所を『立ち回り先』として、控えて行った。

「このほかにも、もしお気づきの点がありましたら、ご一報ください」

刑事は、たぶん、帰りしなに、こう言い置いたに違いない。だからこそ、くるみの電話に出た男は、彼女の住所や氏名を聞き出そうとしたのだ。

《どうしようか?》それが、つぎに考えたことであった。真相を知るためにも、これから、信二の会社に行くべきだろうか。彼が犯罪者なら、彼の逮捕に協力するのが、市民の義務であるかもしれない。
しかし、くるみはそうする気持ちはなかった。恐ろしさ、わずらわしさが、彼女を抑えつけたのだった。


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