その恋、逃亡中。

信二の犯したことは単なる傷害事件ではなく、殺人かもしれないのだ。その場合、彼女が、事実のままを述べれば、彼女の名が新聞に出るかもしれない。

『愛人と別れ話が持ち上がっていたので、その慰謝料を工面しようとして……』というようなことが、新聞に出されてはかなわないと思った。

勤めもやめざるを得まい。将来の幸福にも、障碍になる。傷害、あるいは殺人犯の情婦として、公判廷にでるのもいやであった。その上、彼女自身が、事件に巻き込まれてしまう可能性も、なきにしあらずだ。


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