その恋、逃亡中。
それ以来、今日まで、信二からは何の連絡もこなかった。
《しかたがない……》と、ときどき、彼女は反省していた。
慰謝料を寄越せと言ったり、会社に告げるとおどかしたりすれば、どんな男でも敬遠したくなるだろう。
信二の別れ話が、たとえ、なにかのはずみで出されたものであったとしても、くるみのあの言葉を聞いては、ますます、決心を固くしたのではあるまいか?
安いアパートの一室でくるみは、眠らない夜を何日も経験した。
その部屋に、信二との思い出があるだけに、胸の痛みが、不眠とともにつのる……。
彼女は睡眠薬の助けを借りなければならなかった。