浅葱色の妖
さっきまで着ていた紺色の着物をかけて寝ようとも思ったけれど、不清潔かな、と思ってやめた。
「総司、今日は満月か?」
襖越しに聞こえてきた、低くて有無を言わさぬような声。
土方さんだ。
「違いますよ。そうだ土方さん、月が綺麗ですね」
その返答に答えた声はどこかで聞き覚えのある声。
どこで聞いたかはわからないけれど。
「んだテメェ俺に口説き文句を言うんじゃねぇ」
「あ、ばれてました?」
「馬鹿なのか。こんな所で油売ってねぇで早く市中見回りに行ってこい」
そういえば、お春さんが新選組には夜に京の街を見回るという仕事があると言っていた。
市中見回りというのは、きっとその事だろう。
「早く行かないと鬼の副長に怒られちまう。ああ怖い」
わざとらしくおどける総司と呼ばれた人の声が聞こえると、足音が聞こえてその足音はそのまま遠ざかって行ってしまった。
「あいつ時々俺をなめてるような発言するよな…」
土方さんの呟きが聞こえたような気がした。
そんなこんなしているうちに、寒さも忘れて私はいつの間にか眠りに落ちていた。