ハート泥棒
だから、式の後…あたしは非常階段に行かなかった。
ううん…どうしても行けなかったんだ。
まだ、海斗のことが好きだったから。
ズルいって言われるかもしれないけど、海斗から『さよなら』とか『元気でな』とか…そんな言葉は聞きたくないし…終わりなんてヤダった。
だけど、その後…自分の気持ちと反対に…体が動いた。
『あたし、ちょっと忘れ物したから先に帰ってて!』
式が終わった後、誘ってくれていた友達に嘘をついて…カラオケに行く約束をすっぽかし、もう1度学校に向かって全力疾走していた。
友達と駅までおしゃべりをしながら歩いてても…頭の中で考えていたのは別のことだった。
最後に…強く思ったのは
もう1度だけ、海斗の笑った顔が見たいって…それだけで。