副社長は甘くて強引
1.別れ話は突然に

 ひとり暮らしをしているワンルームマンションの私の部屋に、学生時代から付き合っている彼氏の陽斗(はると)が上がる。いつものように陽斗の好きなコーヒーをペアのマグカップに入れると、それをテーブルの上に置く。

 最近の私たちのデートといえば、どこにも出かけずに家でまったりと過ごすのが定番となっている。
    
 なにかおもしろい番組、やっているかな……。

 そんなことを考えながらテレビのリモコンをいじっていると、陽斗が急に正座をした。

「ゴメン。京香(きょうか)とは、もう終わりにしたい」

 陽斗の口から唐突に飛び出した別れ話に驚く。

「えっ、急にどうしたの?」

「急じゃない。前から考えていた」

 陽斗と付き合って五年。今では一緒にいても胸がドキドキと高鳴ることも、彼のことで頭がいっぱいになることも少なくなった。だからといって、陽斗のことが嫌いになったわけじゃない。

「前って、いつから?」

「一ヶ月くらい前かな。なんか俺、もう京香に女を感じなくて……」

「へ?」

 陽斗は正座していた足を崩すと、首(こうべ)を垂(た)れる。

「今日のその格好。彼氏の前なのに上下スウェットってどうなの?」

「どうって言われても……」

 陽斗の言う通り、今の私の格好はピンクのスウェット姿。楽だしシワになることを気にしなくていいから、どこにも出かけないときは一日中このスウェットを着て過ごしている。

「髪の毛もボサボサだし、スッピンだし。なんか京香、女を捨ててるって感じがするんだけど」

 たしかに昨日は仕事で疲れて髪の毛をきちんと乾かさないで寝ちゃったし、朝起きてから顔を洗っただけでメイクもしてない。でも『女を捨ててる』は、言いすぎじゃない?

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