副社長は甘くて強引
「落ち込んでいた理由の半分は、佐川が原因だからね」
「は? 俺?」
寝耳に水、だったのだろう。佐川の切れ長の瞳が思いきり丸くなる。
「だって佐川って販売成績がいいし、上顧客ついているし」
昼間感じた佐川への嫉妬を並べると、彼の口からため息がこぼれ落ちた。
「あのね、俺が楽(らく)して仕事しているように言わないでほしいな。これでも見えないところで地味にがんばってるんだから」
ダイヤやルビー、エメラルドのように有名な宝石から、ブルージルコンのように十二月の誕生石であるのにもかかわらず、あまり知られていないような宝石まで、販売スタッフはあらゆる知識を得ていなければお客様に商品をすすめられない。
女性よりもジュエリーを身に着ける機会が少ない男性の佐川は、きっとたくさんの努力をしてきたはずだ。
「ゴメン」
勝手に嫉妬したことを反省して謝る。
「まあ、別にいいけど。それで? 落ち込んでいた残りの半分の理由はなに?」
お鍋に野菜を入れた佐川が私に尋ねてくる。
今の私の心を占めているのは、販売ノルマや佐川への嫉妬じゃない。心に負った傷は一ヶ月が経っても癒えるどころか、さらに痛みを増している。
「……彼氏と別れたの」
佐川に一ヶ月前の出来事を打ち明けると、元カレとなってしまった陽斗との思い出が頭の中に次々と浮かび上がった。