副社長は甘くて強引

 もしかしたらノルマを達成できるチャンスかもしれない。そう思っていた気分が急降下する。しかし売り上げには直結しないお客様でも無下にはできない。

「そうでしたか。ダイヤのコーナーはあちらになります。どうぞ」

 ショップの奥に女性客を案内する。

「お客様と同じような商品は、こちらになります」

 笑顔を絶やさずにショーケースの施錠を解除する。そして女性客と同じようなダイヤのネックレスをスエード調のジュエリートレイにのせる。

「わかったわ。ありがとう」

「いえ」

 プライスタグを見た女性客の口もとに笑みが浮かぶ。

 きっと昨日のお店で購入したネックレスのほうが安かったんだ。同じような商品なら、少しでも安いほうがうれしいに決まっている。

 取り出したネックレスをショーケースに戻す。

「お客様、ダイヤのネックレスも素敵ですが、先月発売されたばかりのこちらの新作を……」

 今日、商品を購入してもらえなくても、次のつながりを作っておきたい。セールスを始めると、女性客の眉がハの字に下がる。

「ごめんなさい。私、待ち合わせしているの。もう行かなくちゃ」

 二日続けて値が張るジュエリーを買い求めるお客様は滅多にいない。無理に引き留めても印象が悪くなるだけだ。

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