副社長は甘くて強引
「そういう陽斗だって、私がどこかに行こうって誘っても、仕事で疲れているからって昼寝しちゃうじゃない」
私だって、ダラダラと家で過ごすだけのデートに満足しているわけじゃない。たまにはオシャレなカフェでランチしたり、映画を見たり、水族館や遊園地にだって行きたい。
「は? スウェットもスッピンも俺のせいだって言いたいわけ?」
「そうは言ってないけど……」
お互いの意見が合わず、ケンカになったのは一度や二度じゃない。でもそのたびに歩み寄り、仲直りしてきた。でも今回は今までとは違う。だって陽斗は、もう私を女として見られないというのだから……。
「なあ京香、俺たち、もう終わりにしないか?」
別れ話をする陽斗の顔を見るのがつらい。視線を落とすと、右手薬指に輝くペリドットの指輪が目に留まる。
オリーブグリーン色をした八月の誕生石である小さなペリドットが上品にあしらわれた指輪は、二十歳(はたち)の誕生日に陽斗がプレゼントしてくれたもの。この愛が永遠に続くと信じて疑わなかったあの日から五年が経った今日、私はその陽斗から別れを迫られている。
別れたくないと言って泣けば、陽斗は考え直してくれる?
うつむいていた顔を上げて陽斗を見る。けれど陽斗の瞳はもう私を見ていなかった。
ふたりの愛が永遠に続くなんて幻想だったんだ。
事実を受け入れた途端、私を取り巻くもののすべてが急激に色褪せていく。陽斗がプレゼントしてくれた右手薬指に光るペリドットの輝きさえも……。
「うん、わかった」
気力を失った私が陽斗の気持ちに同意すると、五年間続いた関係が呆気なく終わりを迎えた。