副社長は甘くて強引
「忘れてません! 私の指輪を返してください!」
『だから俺に同行したら返すよ。それじゃあ、午後二時に迎えに行く』
「はい?」
『午後二時に迎えに行く。いいね』
スマートフォン越しの副社長の声は、少し苛立ったように聞こえる。でも彼の様子を気にしている場合ではない。聞きたいことが山ほどある。
「迎えに行くって……あっ、もしもし?」
話の途中で、通話が切れたことを告げる機械音が耳に届く。
言いたいことだけを言って通話を強制的に終わらせるなんて、自分勝手すぎる!
ムッとしながら通話ボタンを押す。
でも、どうして私のナンバーとウチの場所を知っているんだろう。もしかして人事部で私の個人情報を調べたのかもしれない。それに、どこに行くのかも教えてくれなかったし……。
やっぱり副社長って強引なんだ。
ますます彼に苦手意識を持ってしまった。
とにかく今日は副社長に同行するしかないみたい。となれば、仕事を休むと会社に連絡しなくちゃ。
副社長の気まぐれのせいで有給休暇を取得することになってしまった。不満に思いながら会社にコールすると鈴木チーフを呼び出す。
「おはようございます。大橋です」
『あ、大橋? 俺、佐川。チーフは今ほかの電話に出てるけど』
今日の早番は佐川。私は遅番だ。同期の佐川の声を聞いて、苛立っていた気持ちが少し緩む。
「そうなんだ。あのね、今日お休みさせてもらおうと思って連絡したんだけど」
『大橋が休むこと、チーフ知ってるよ』
「えっ、どうして?」
『さっき副社長がショップに来たから。大橋を一日借りるって言ってたけど、どういう意味?』