副社長は甘くて強引
「はい、終了~」
ノリさんが目の前から移動すると視界が開ける。カットとカラー、そしてメイクを施された自分の姿がサロンの大きな鏡に映し出される。
「えっ?」
いつもとは違う自分の姿に驚き、思わず声をあげてしまう。
「どう? 気に入ってくれた?」
「はい! もちろんです!」
ノリさんと鏡越しに微笑み合った。
「ノリ、終わったのかな?」
「は~い、終わりましたぁ」
今までサロン内のソファに座り、雑誌を読んでいた副社長が立ち上がる。そしてカツカツと足音を立てながらこちらに向かってきた。
彼は私が座っているスタイリングチェアの背もたれに両手をつく。
肩先でワンカールしているマロン色の髪の毛、透明感がある肌、ほんのりと桃色に染まった頬、ふっくらと潤った唇。以前と変わった鏡に映り込んでいる私の姿を、彼がじっと見つめる。
「ん、いいな」
副社長は鏡から視線を逸らすと、短くなった私の髪を右手でふわりとすくい上げた。彼の口から紡がれる初めての短い褒め言葉は、うれしくて恥ずかしい。
「ありがとうございます」
小さな声でお礼を言うと、副社長の口角がわずかに上がったのが鏡越しに見えた。暴言を吐かれ、ついさっきまでイラついていたことが嘘のように鼓動が跳ね上がる。
うわぁ、ダメダメ。副社長は超絶にかっこいいけれど、性格は最悪な残念イケメンなんだから。
これ以上、彼にときめかないように、と自分に言い聞かせた。