副社長は甘くて強引
見た目はゴツいけれど、ヘアメイクの技術は一流であるノリさんのサロンを後にする。
『キミには俺の隣に並んでも恥ずかしくない格好をしてもらう』と、副社長に言われた私が次に連れてこられたのは、誰もが知っている高級ブランドショップ。
「樋口様、いらっしゃいませ」
上品な黒のスーツに身を包んだ綺麗な女性スタッフが、副社長と私を迎えてくれる。名前を呼ばれるってことは、彼はこの高級ブランドショップの常連ということ。
さすがハートジュエリーの副社長。ブランドショップなど滅多に利用しない私とは大違いだ。
ショップに並ぶのは色とりどりの服や、様々なデザインのシューズ。そのほかにも帽子やストールなどのファッション小物も充実している。
副社長は、その中から迷うことなく一着のドレスと、黒いアンクルストラップのパンプスを選ぶ。
「これを彼女に」
「はい、かしこまりました」
副社長が女性スタッフと会話を交わす。
高級ブランドショップのドレスがいくらするのか、私にはわからない。でも目玉が飛び出るほど高いことだけはたしかだ。
「副社長、私、困ります」
「このドレスが気に入らないのかな?」
「そうじゃなくて……」
女性スタッフの前で値段のことを言うのは気が引けて、言葉に詰まる。
「それならなにも問題ないだろ?」
高級感漂うショップ内で、反論なんかできない。
「……はい」
渋々返事をした私は女性スタッフとともに、フィッティングルームに向かった。