副社長は甘くて強引

 自分の気持ちに首を傾げながら家を出ると、満員電車に揺られて出勤する。

 私が勤めているのは『ハートジュエリー』東京本店。指輪、ネックレス、ピアス、ブレスレットなどのオリジナルジュエリーの企画、製造加工、販売を手がけている会社だ。

 会社は地上七階建ての自社ビル。エントランスの先にあるエレベーターで五階へ直行し、ロッカールームで制服に着替えるとエレベーターで一階に向かう。

 販売部に所属している私の主な仕事は、ショップに立ち、接客すること。ちなみに販売成績は、それなりにいいほうだ。

 いつもショーケースの中のジュエリーは、夜空に輝く星のようにキラキラと光を放っている。

 都内のワンルームマンションで、慎(つつ)ましやかにひとり暮らしをしている私にとって、きらびやかで贅沢(ぜいたく)な雰囲気を醸し出すショップは大好きな場所。仕事が嫌だと思ったことは今まで一度もない。でも今日は、ショーケースに収まっているジュエリーに輝きは見えない。

 こんなこと初めてだ……。

 弾まない気持ちに不安を覚えながら、ショップに立った。

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