副社長は甘くて強引
サロンでヘアメイクをしてもらい、真紅のドレスに身を包んだ。これで私は、副社長の隣に並んでも恥ずかしくない姿になったようだ。ハンドルを握る彼の横顔は、今日初めて会ったときよりも穏やかに見える。
「あの、横浜に向かっているんですか?」
「ああ、そうだ」
聞きたいことを尋ねるには今がチャンスだ。そう思った私はここぞとばかりに、質問を投げかける。
「横浜にはなにをしに?」
「到着すればわかるよ」
副社長が運転する車は、高速道路を順調に走行している。この調子なら目的地に到着するのも時間の問題かもしれない。横浜のことは取りあえず保留にすることにした。
「あの、指輪はいつ返してもらえるんでしょうか」
「さあ、いつだろうね。でも指輪は必ず返す。それとも俺が信用できないかな?」
「……いいえ」
ハートジュエリー副社長という肩書きのある彼は信用できる。しかし樋口直哉、個人の彼のことはなにも知らない。でも趣味に特技、好きな食べ物と好みの女性のタイプ。それらをこの場で聞いたところで、すぐに彼への信頼感が増すわけではない。
口をつぐむと、車の中に流れるBGMに耳を傾けた。