副社長は甘くて強引
「到着だ」
「えっ、ここって……」
副社長は戸惑う私を無視したまま、運転席から外に出る。そして助手席に回り込んでドアを開けると、私に手を差し出した。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
エスコートに従い、彼の手に自分の手を重ねる。副社長の手は大きくて厚みがあり、そして温かい。
副社長は女性の扱いに慣れているとわかっている。それなのに彼の体温を感じただけで、鼓動が勝手に跳ね上がってしまう。
この感情は恋じゃない。副社長の紳士的な振る舞いを前に、気分が舞い上がっているだけだ。
自分にそう言い聞かせながら、彼の手を借りて車から降りた。
私が連れてこられたのは、ハートジュエリー横浜店。レンガ造りの外壁にアーチ状のガラス窓。西洋的な建物の横浜店は、異国情緒漂うこの街にとてもマッチしている。
ガラス戸の両開きドアを副社長が手で押さえてくれる中、ショップに入る。シャンデリアが輝く吹き抜けの店内、ブラウンで統一された内装。東京本店よりもひと回り小さい横浜店は落ち着いた雰囲気があり、居心地がいい。
「いらっしゃいませ。副社長、お待ちしておりました」
来店した私たちを、女性スタッフが迎えてくれる。
「遅くなってすまない」
「いいえ」
ふたりのやりとりを一歩下がって聞いていると、副社長が女性スタッフを紹介してくれた。
「彼女は横浜店チーフの田中。販売成績は全店で常にトップ。自慢のスタッフだ」
黒髪のショートボブスタイルにスレンダーな体型の田中チーフが、私に微笑みかけてくれる。