副社長は甘くて強引
「いいじゃないですか。副社長がプレゼントするっておっしゃっているんだから。この際、お値段は気にしないで本能の赴(おもむ)くまま選びましょう」
「本能って……」
慎重になっている私とは対照的に、田中チーフはこの状況を楽しんでいるように見える。
「さあ、大橋さん。どのような指輪がいいですか?」
私が持っているジュエリーは、陽斗からもらったペリドットの指輪だけ。同僚の多くがハートジュエリーの指輪やネックレスを身に着けているのを、実はずっとうらやましく思っていた。
でも私は、ひとり暮らしをしているため贅沢はできない。だから素敵なジュエリーたちを前にして、ただ我慢するというつらい毎日を過ごしてきたのだ。
本能の赴くまま……。
田中チーフの言葉が、私の背中を押す。
「私、フォーエバーハートシリーズの指輪に憧れていたんです」
学生時代からずっと胸に秘めていた思いを打ち明ける。
「あら、私と同じですね」
「えっ?」
私の思いに同調してくれた田中チーフを見つめる。その指先にはフォーエバーハートのダイヤモンドの指輪が輝いていることに、今さら気づく。
「私がハートジュエリーに入社したのは、フォーエバーハートシリーズが大好きだからなんですよ。ひとりでも多くの人にフォーエバーハートシリーズを知ってもらいたい、身に着けてもらいたい。今でもそう思っています」
「そうですか」
「ええ」
どうして田中チーフの販売成績が全店で常にトップなのか、理由がわかった。彼女はハートジュエリーとフォーエバーハートシリーズを心から愛し、仕事に情熱を持っている。
私は、どう?
田中チーフの足もとにも及ばない自分を、恥ずかしく思った。