副社長は甘くて強引
髪型とメイクと整え、綺麗なドレスを身にまとい、指には美しいルビーの指輪が輝いている。そして目の前には気品漂う副社長がいる。
まるでおとぎ話のお姫様になったみたい。あ、そうだ。私がお姫様なら、副社長は王子様だ。燕尾服を着た樋口王子様にお姫様抱っこされて、お花畑をクルクルと回る姿が脳内で再生される。
しかし私のちょっとイタい妄想は、彼の現実的な言葉で、あっという間に終わりを迎えてしまう。
「伸びたままの髪の毛、適当なメイク。昨日のキミは身なりが整っていないうえに、こんな安っぽい指輪をしていた」
「あっ」
副社長がジャケットのポケットから取り出したのは、元カレの陽斗からもらったペリドットの指輪。彼はそれをテーブルの上にカツンと置く。
ペリドットの指輪をもらったのは二十歳の誕生日。当時、大学生だった陽斗がアルバイトに励んで買ってくれたものだ。
値段なんか関係ない。この指輪は私の宝物……。
大事にしていたものをバカにされ、一瞬のうちに怒りを覚える。
「俺が客だったら品格を疑うキミのようなスタッフから、ジュエリーを買おうとは思わない」
「……っ!」
しかし私に関することはすべて的を射ているから、副社長に言い返す言葉が見つからなかった。
私に足りないのは仕事に対する情熱、そして品位。
情熱は私の努力次第でクリアできそうだけれど、どうやって品位を高めればいいのかわからない。途方に暮れていると、副社長がテーブルに身を乗り出した。