副社長は甘くて強引
「いいか。今日、キミは生まれ変わった。もう陽斗のことは忘れてもいいんじゃないのかな。それから客がなにを求めてハートジュエリーに来店したのかよく観察すること。そしてこれからは常に人に見られているという意識を持つように。このフォーエバーハートの指輪は自分に自信がつくお守りだ」
副社長の長い人差し指が、私の右手薬指に輝くルビーの指輪にちょんと触れる。彼のその仕草と熱い言葉は、私に力とヤル気を与えてくれた。
「副社長、ありがとうございます。私、がんばります」
「ああ。キミの成長を楽しみにしている」
学生時代の成績はいつも普通で、親に過剰な期待をされることもなく育った。けれど今、私は副社長に期待されている。大きなプレッシャーを感じないと言ったら嘘になる。しかし彼の期待に応えたいという気持ちのほうがはるかに大きい。
副社長のおかげで、陽斗と別れて沈みがちだった感情が吹き飛ぶ。彼の言う通り、本当に生まれ変わったような気分だ。
副社長が私に魔法をかけてくれたんだ……。
そんな夢見心地な気分でいると、テーブルにメインディッシュが運ばれてくる。
「さて、これで社員教育は終了だ。あとは料理を楽しもう」
彼はそう言いながら、牛ヒレ肉のグリルに手をつける。やわらかそうなお肉に食欲をそそるいい香り。しかし大好物であるお肉を目の前にしても、すぐに手をつける心境にはなれない。