副社長は甘くて強引
「あの、社員教育ってどういう意味ですか?」
疑問に感じたことを尋ねる。
「ん? 今日一日キミを連れ回したのはデキの悪い社員を教育し直すためだ」
彼は牛ヒレ肉をおいしそうに味わいながら、平然とそう言いきった。
「デキの悪い社員って……」
「もちろん、キミのことに決まっている。ほかに誰がいるのかな?」
「……」
ストレートな副社長の言葉が、私の心にグサグサと突き刺さる。でも先月の販売成績が最下位なのは事実だから仕方ない。
それよりサロンにドレス、そしてフォーエバーハートの指輪。すべてが社員教育のためとは驚きだ。やはりハートジュエリーの副社長である彼と、ただのスタッフの私とでは感覚が違いすぎる。
副社長の言動に呆気にとられていると、彼が私を見捉えた。
「ただし、社員教育は二度ない。来月、十二月の販売成績がまた最下位だったそのときはクビだ。覚悟しておくように」
「……っ!」
副社長のクビ宣告は冗談じゃないようだ。
彼の真剣なまなざしと低い声が、そう訴えている。
「ほら、早く食べよう。折角の料理が冷めてしまう」
「……はい」
クビになったら生活していけない。なにがなんでも最下位から脱出しなくちゃ……。
厳しい現実と戦うための英気を養おうと、牛ヒレ肉のグリルにナイフを入れた。