副社長は甘くて強引
「佐川、ゴメン。詳しいことは明日話すね」
『ああ、悪い。それじゃあ、明日』
「うん。じゃあね」
佐川との通話を終わらせる。
「相手は販売スタッフの佐川かな?」
「佐川のこと知っているんですか?」
ハートジュエリーのスタッフ数は東京本店だけでも二百人以上いる。それなのに、佐川のことを知っているのはどうして?
ハンドルを握る副社長の横顔を見つめる。
「彼は販売成績が優秀だからな」
「あ、なるほど……」
以前にも感じた佐川への嫉妬がムクムクと湧き上がる。
「仲がいいんだな」
「同期だし普通だと思いますけど」
佐川とは同じ歳だから話しやすいし、一緒にいても気を使わなくて済むから楽だ。けれど、仲がいいというのとは少し違う気がする。
「そう思っているのはキミだけだと思うけどな」
「どういう意味ですか?」
「……キミは鈍いな」
「……」
副社長がため息交じりにつぶやく。彼がなにを言いたいのか、私にはさっぱりわからない。
私、振り回されているな……。
運転席の副社長に視線を移す。長い首に張り出た喉仏、ハンドルを握る手の甲に浮かぶ血管。男の色気を醸し出す彼の姿に見惚れてしまう。
あれ? 私、副社長のことが苦手だったはずなのに……。
たった半日一緒に過ごしただけで、彼に対する苦手意識が完全に消え去っていることに気づく。
どうしちゃったんだろう、私……。
副社長の横顔を見ているだけで、トクトクと音を立てる胸に手をあてて思いを巡らせる。
ああそうか。胸が高鳴るのは非日常的なことが連続して起きたせいだ。
納得できる答えを導き出した私は、スマートフォンをバッグにしまった。