副社長は甘くて強引

「いらっしゃいませ」

 来店されたお客様を笑顔で迎える。

『客がなにを求めてハートジュエリーに来店したのかよく観察すること』という副社長のアドバイス通り、ショーケースの中のジュエリーを見つめているお客様の様子をうかがった。

 年齢は二十代後半くらい? 黒のパンツスーツに大きめのショルダーバッグ。ショートカットスタイルの髪型から覗く耳たぶには、ゴールドのフープピアスが揺れている。ほかに身に着けているジュエリーはない。

 今の時刻は午後二時。この時間に来店できるということは、営業職なのだろうか。

 まずは彼女の視線の先にあるネックレスについて説明してみることにした。

「こちらはとても人気のある商品でして、入荷してもすぐに売り切れになってしまうんですよ」

「あ、そうですか」

「はい。本日はネックレスをお探しですか?」

 ショーケースから視線を上げた彼女が小さな声で話を始める。

「ネックレスというか……実は仕事で新規の契約が取れたんです。それでがんばった自分にご褒美を、と思ってここに来たんですけど……」

「それはおめでとうございます!」

「ありがとうございます。あ、その指輪、素敵ですね」

 彼女の視線が私の右手薬指に注がれる。

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