副社長は甘くて強引
6.旅立ちの前に
副社長にお寿司をごちそうしてもらってから一週間が経った十二月上旬。クリスマスを控えて華やぐ街並みを尻目に、ハートジュエリー東京本店に急ぎショップに立つ。
「いらっしゃいませ。贈り物をお探しですか?」
真剣なまなざしでショーケースを覗く男性客に声をかける。
「あ、はい。そうです」
外は手がかじかむほど寒いというのに、この男性客の額には玉のような汗が滲んでいる。 多くの男性は、ジュエリーショップにひとりで訪れることを恥ずかしがる。きっとこの男性客もそうなのだろう。
「クリスマスプレゼントですか?」
「はい。彼女に指輪を贈りたいんですけど、サイズがわからなくて……」
「大丈夫ですよ。プレゼントした後でもサイズのお直しは可能ですから」
男性客の緊張をほぐしながら、予算やどのようなデザインの指輪を贈りたいのか尋ねる。
今は一年で最も忙しいクリスマスシーズン。猫の手も借りたいほど忙しい毎日が続く中、今日も笑顔でお客様を迎える。