副社長は甘くて強引
「呼び止めてしまってすみませんでした。失礼します」
私より十歳も年上の副社長と、美人で品がある彼女はよくお似合いだ。
チクリと痛む胸を自覚しつつ頭を下げると、その場から逃げ出すように足を一歩踏み出した。すると、副社長に手首を掴まれる。
「キミに話がある。後で連絡してもいいかな?」
「あ、はい」
副社長が私にどのような話があるのか気になる。けれど女性を待たせている手前、尋ねることはできない。
「気をつけて帰るように」
私の手首を掴んでいた副社長の手がスッと離れ、彼の口もとに笑みが浮かぶ。私を気遣ってくれる副社長の優しさがうれしい。しかし華やかな雰囲気を醸し出す彼女の存在が視界に映り込んだ瞬間、心の中がザワザワと騒ぎだす。
「はい。失礼します」
副社長と彼女の関係を気にしつつ挨拶をすると、もう一度頭を下げて銀座駅に向かった。
副社長が女性をエスコートしている場面に遭遇してしまってから数時間後。食事を済ませてお風呂に入った私は今、副社長からの連絡を待っている。
彼と彼女の関係はわからないけれど、美男美女のふたりはとてもお似合いだった。今でも副社長と彼女の姿が頭にチラついて離れない。
ふたりは今頃、どこでなにをしているの?
ベッドの上にゴロンと横になると、いつまで経っても鳴らないスマートフォンの画面を恨めしく見つめた。