副社長は甘くて強引
副社長と由実さんの関係がハッキリすれば気分は晴れる?
暗闇が続くトンネルから一刻でも早く抜け出したいような気持ちに駆られた私は、さらに疑問をぶつける。
「由実さんは副社長の……彼女さん、なんですか?」
副社長の二重の瞳が大きく見開く。
「まさか。由実さんには婚約者がいる。昨日はエンゲージリングとマリッジリング、それから結婚式で彼女が着用するティアラとネックレスのデザインを決めるために、デザイナーを含めて食事しながら打ち合わせをしたんだ」
副社長の説明を聞いただけで、由実さんという女性がいかに上顧客なのかすぐに理解できた。
「そうだったんですか」
由実さんは副社長の彼女じゃなかった。
事実を知った瞬間、心の中を埋め尽くしていた雲が晴れて清々(すがすが)しい気持ちになった。
「もしかして元気がなかったのは、由実さんに嫉妬していたからかな?」
「えっ? 嫉妬?」
口角をニヤリと上げた副社長が私の顔を覗き込む。唇が重なり合う一歩手前のような近すぎる距離に驚いた私は、とっさに体を引く。しかし彼はさらに私に詰め寄ってきた。
「どうなのかな?」
彼の吐息交じりの声が耳にかかる。
これってわざとだ!
副社長は私をからからっておもしろがっている。そうわかっているのに、感情が勝手に高ぶってしまうことが悔しい。