副社長は甘くて強引
佐川が連れてきてくれたのは、しゃぶしゃぶ屋さん。掘りごたつがある和風の個室に案内される。とりあえず生ビールをオーダーするとメニュー表を見つめた。
「このお店、佐川はよく来るの?」
「うん。たまに」
「ふ~ん。そうなんだ」
メニュー表から、向かいに座っている佐川に視線を移す。
「なにか言いたげだね?」
佐川も顔を上げると、私を見つめる。
「別に。でもしゃぶしゃぶってひとりじゃ食べに来ないし、このお店個室しかないし。誰と一緒に来るのかな~と思って」
職場の佐川はよく知っているけれど、プライベートのことは謎だらけ。佐川の様子を軽くうかがう。
「もしかして俺のことが気になるとか?」
「まさか」
「また~。気になるなら正直にそう言えばいいのに。俺、大橋の質問ならなんでも答えるよ」
佐川はテーブルに頬杖をつくと、口角をニヤリと上げる。
これって〝余裕の笑み〟ってやつだ。同じ歳なのに、私をからかうような態度をとる佐川が癪(しゃく)に障(さわ)る。
こうなったら今日は佐川を丸裸にしてやろう。
意気込んでいるとオーダーしていた生ビールが運ばれてきた。
「大橋って苦手な食べ物ってある?」
「ううん、とくにない」
「それなら料理は俺が適当に注文しちゃっていい?」
「うん。任せる」