副社長は甘くて強引
「やはりそうか。俺が日本を留守にしている間に、キミたちは同期以上の関係になったんだな」
「違っ! 私と佐川は……」
ベッドから跳ね起きた私の言い訳は、彼の言葉によって瞬時にかき消されてしまう。
「いや、隠さなくていい。自分が勤めている会社の副社長に無理やり迫られて、断りきれなかったんだろう? キミには悪いことをした。すまない」
「副社長、私は……」
お願いだから謝らないで。私を『キミ』と呼ばないで。私の思いを聞いて……。
そう伝えたいのに、またも言葉を遮られてしまう。
「タクシーを呼ぼう。送ってやれずに悪いな」
彼は私の話にはいっさい耳を貸さずに、一方的に話を進める。
そうか。副社長は私の体が目的だったんだ。でも彼氏がいる女を抱くつもりはない。彼が私に求めたのは、体だけの関係……。
好きだと告白されたわけじゃないのに、私たちは相思相愛なんだと一瞬でも勘違いした自分が恥ずかしい。
「失礼します」
ベッドから立ち上がるとコートとバッグを手に取る。そしてベッドルームから勢いよく飛び出した。しかし私の後を追い駆けてくる足音は聞こえない。
私、なにを期待しているんだろ……。
未練がましい気持ちを振りきると、スイートルームを後にした。
冷たい北風を頬に受けながら家に向かってトボトボと足を進める。電車にもタクシーにも乗らなかったのは、泣き顔を誰にも見られたくなかったから。
もう副社長と個人的に会うことはないし、連絡がくることもないんだ……。
彼と一緒にいるときには感じなかった寒さが身に沁みた。