副社長は甘くて強引
「それって副社長と別れたったこと?」
「違う。そもそも私と副社長はつき合ってない」
「つき合っていないのにキスしたの?」
「それは……」
矢継ぎ早に質問してくる佐川を前に、言葉に詰まる。
副社長が私にキスをしたのは、三週間振りの再会に気分が上がったせいだ。彼に私を好きだという感情はない。
「なあ、大橋。副社長なんかやめて俺にしなよ。俺、ずっと大橋のことが好きだった。大橋のこと大事にする。泣かせたりしない」
私のことを一途に思ってくれていた佐川の気持ちを受け入れれば、きっと幸せになれる。でも私が好きなのは、副社長ただひとり。この気持ちはしばらく変わることはないと断言できる。
「佐川。ごめ……」
謝りの言葉が途切れたのは、佐川に両手首を掴まれたから。驚きで言葉を失った私は目を見張る。
佐川が力を込めると、私の体が簡単にふらつく。あっという間に体を半回転させられ、背中が駐車場入口付近の壁にドンとあたった。
「……んっ」
抵抗する間もなく佐川に唇を塞がれてしまう。上下の唇が佐川の舌によって無理やりこじ開けられ、生温かいものが口内に侵入してくる。
嫌、やめて。
心の中で悲鳴をあげる。けれど私の思いは佐川には届かない。
この先、どうなるの?
不安だけが大きく膨らんでいく。そんな中、車のエンジン音が地下駐車場に響き渡った。