副社長は甘くて強引
9.強引副社長に翻弄されて
「すみません。調子が悪いので今日は休ませてください」
『わかったわ。お大事に』
「はい。失礼します」
鈴木チーフとのやり取りが終わると通話を切る。
調子が悪いのは風邪のせいではない。頭がズキズキと痛むのも、体が鉛のように重いのも、すべて昨日の出来事が原因。
ハートジュエリーの地下駐車場で佐川にキスされ、その場面を副社長に見られてしまった。ショックを受けた私は、ロッカールームで泣き、家でも泣いた。それでも涙は一向におさまらず、結局今も泣き続けている。
こんな泣き腫らした顔でショップには立てないし、立ったところでまともに接客できるとは思えない。
今月の売り上げはきっとまた最下位だ。そうなったら、今度こそ私はクビだ……。
考えれば考えるほど思考がネガティブになっていく。
クビになる前に、自から辞表を出そう。実家に帰れば家賃と食費は浮くし、アルバイトしてお給料を家に入れれば親も文句は言わないだろう。
ハートジュエリーを辞める計画が、頭の中で着々と進んでいく。
引っ越し代っていくらかかるんだろう。そうだ、引っ越す前に大学時代の友人である千里とも会いたい。さらば東京か……。
感傷的になり、また涙がジワジワと込み上げてくる。
ああ、もう! 今はハートジュエリーを辞めることも、引っ越しをすることも考えるのはよそう。昨日は一睡もしていない。頭が痛いのはきっと寝不足のせいだ。
ベッドに入ると頭から布団をかぶった。