結婚前夜
結婚前夜
「目の前に東京タワーだぜ」
「ホント。綺麗ね」
東京タワーの一望できるその部屋は、親友から結婚祝いにとプレゼントされた。
当初は、婚姻届を提出したその日に宿泊しようかと考えていたが、夕方から宗介の泊まり仕事が入ることになり、結婚前夜に宿泊することになったのだった。
「こうやって宗介とホテルに泊まるのなんていつぶりだろ?」
美しい顔といつも冷静な性格もあって、『クールビューティー』と称されることも多い彼女が、まるで少女のように可愛い笑顔を浮かべるのを見て、思わず顔がニヤケてしまう。
「お互い仕事が忙しくて、旅行にも行けてないもんな」
「宗介はあちこち飛び回ってますけどね」
「未来もな」
カメラマンで世界中飛び回る彼と、美容業界の最大手の企業でメークアップアーティストとして働く彼女。
中々時間が合わなくて、旅行に行ったのも付き合って四年近くで数えるほど。
デートだって頻繁にすることは出来ないが、お互いを尊重しあって交際をしてきた。
「ねぇ、宗介。航がこの部屋プレゼントしてくれたのって偶然?」
ひとしきり部屋を観察し終わった未来が、ベッドの端に腰を掛けて言う。
「え?」
「だってこのホテル、私たちが出会ったホテルの系列なんだよ。航のことだから、なんか偶然とは思えなくて」
「そういえば、そうだな」
ふたりの馴れ初めは、宗介の親友である航には早い段階でバレていた。宗介と未来の再会には、航の協力が不可欠だったからである。
「しかし、今考えてもあり得なかったなあ、あの時の私」
思い出したようにクスリと笑う未来の横に座り込み、肩を抱く。
「確かに、普段の未来なら絶対にないよな。知らない男にお持ち帰りされるとか」
「……それ、絶対誰にも言わないでよ。知ってるの、私たちふたりと航以外にいないんだから」
「へぇ。雛子ちゃんにも言ってないの?」
「ダメダメ! 雛子になんて一生言えない。宗介も墓場まで持っていってよ!」
頬を赤らめてブンブンと首を横に振る未来。
こんな姿を見られるのも、きっと自分だけなんだろうな。
そう思うと、顔がニヤケてくるのが止まらなくなる。
「なにニヤケてんのよ?」
「別に。結婚前夜だから、未来と出会ったときのこと思い出してただけ」
「出会ったときかあ……。宗介には一番弱ってるときに出会った気がするなあ」
独り言のようにつぶやいた未来が、宗介の肩に頭を置いたまま目を閉じた。
いつも凛としていて、泣き言なんて言わない未来。
そういえば初めて会ったときも、最初は凛としていたっけ。
もたれかかる未来の頭を撫でながら、宗介は四年前の出来事を思い出していた。
「ホント。綺麗ね」
東京タワーの一望できるその部屋は、親友から結婚祝いにとプレゼントされた。
当初は、婚姻届を提出したその日に宿泊しようかと考えていたが、夕方から宗介の泊まり仕事が入ることになり、結婚前夜に宿泊することになったのだった。
「こうやって宗介とホテルに泊まるのなんていつぶりだろ?」
美しい顔といつも冷静な性格もあって、『クールビューティー』と称されることも多い彼女が、まるで少女のように可愛い笑顔を浮かべるのを見て、思わず顔がニヤケてしまう。
「お互い仕事が忙しくて、旅行にも行けてないもんな」
「宗介はあちこち飛び回ってますけどね」
「未来もな」
カメラマンで世界中飛び回る彼と、美容業界の最大手の企業でメークアップアーティストとして働く彼女。
中々時間が合わなくて、旅行に行ったのも付き合って四年近くで数えるほど。
デートだって頻繁にすることは出来ないが、お互いを尊重しあって交際をしてきた。
「ねぇ、宗介。航がこの部屋プレゼントしてくれたのって偶然?」
ひとしきり部屋を観察し終わった未来が、ベッドの端に腰を掛けて言う。
「え?」
「だってこのホテル、私たちが出会ったホテルの系列なんだよ。航のことだから、なんか偶然とは思えなくて」
「そういえば、そうだな」
ふたりの馴れ初めは、宗介の親友である航には早い段階でバレていた。宗介と未来の再会には、航の協力が不可欠だったからである。
「しかし、今考えてもあり得なかったなあ、あの時の私」
思い出したようにクスリと笑う未来の横に座り込み、肩を抱く。
「確かに、普段の未来なら絶対にないよな。知らない男にお持ち帰りされるとか」
「……それ、絶対誰にも言わないでよ。知ってるの、私たちふたりと航以外にいないんだから」
「へぇ。雛子ちゃんにも言ってないの?」
「ダメダメ! 雛子になんて一生言えない。宗介も墓場まで持っていってよ!」
頬を赤らめてブンブンと首を横に振る未来。
こんな姿を見られるのも、きっと自分だけなんだろうな。
そう思うと、顔がニヤケてくるのが止まらなくなる。
「なにニヤケてんのよ?」
「別に。結婚前夜だから、未来と出会ったときのこと思い出してただけ」
「出会ったときかあ……。宗介には一番弱ってるときに出会った気がするなあ」
独り言のようにつぶやいた未来が、宗介の肩に頭を置いたまま目を閉じた。
いつも凛としていて、泣き言なんて言わない未来。
そういえば初めて会ったときも、最初は凛としていたっけ。
もたれかかる未来の頭を撫でながら、宗介は四年前の出来事を思い出していた。
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