緋女 ~前編~
新しい名前

プロローグ



あの日、私は捨てられた。



珍しく母が優しくて誘われてきた山の奥地に、独り。



ただ愛されていなかった、それだけの話。

でも私は愛されていたかった。

そのためにずっといい子を演じてきた。



それも無駄になったあの日。



私はそうすることで保ってきたものを、失い迷う。


失う? 
そんな優しいものじゃない。


むしろ木っ端微塵に砕けた。


いや、保ってきたものなど最初からなかったと言うべきか。


そこに愛はなかったのなら。
保ってきたものなどなかったのなら。



砕けたのは___私の幻想。
 


儚く、切なく、簡単に砕けた幻想。



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