緋女 ~前編~

「でも歩くのは嫌」

彼女が一言そう言えば、黙っていた彼女の影はここぞとばかりに声を張り上げた。

「妾がいるではないかっ、姫」

「えっ?」

「妾が翔べば世界の裏側もほんの一瞬でつくのじゃぞ?」

「貴様、それは言い過ぎだ」

甲高い声で鳥が騒ぐので少しうるさい。

が、次の言葉に俺は何も考えられなくなった___。




「そなたこそ、妾をなんと心得るのじゃ。妾は鳳凰じゃぞ」



そのあとに続く彼女と影の会話が耳へと素通りする。思考が停止して理解するのに時間がかかる。


「鳳凰だと………」


俺の口からこぼれ落ちたその言葉は彼女に拾われた。

「んっ、どうかした?」

「お前の影は鳳凰なのか………?」

「みたいね」

何も知らずにそう答えた彼女。

俺にも彼女にもどうしようもなかった。

さっきまでの彼女への考えの改めなどなかったかのように、負の感情は俺を支配する。


「___どうしてお前なんだ」


鳳凰を影にもつということは、俺の欲しいものに手が届くという証。

それを、俺ではなく彼女が持っている。

「なんでお前なんかが」

呪いのように彼女に何も考えずに繰り返し言った。


「お前なんか、いなきゃ良かったのに」


“君に出逢えた”

そのさっきまでのとはまるで違う言葉に固まる彼女。

でも俺の口からは呪いの言葉が次から次へと出てきて止まらない。


「お前のせいだ、全部お前が悪い」

「ケイ………」

「なんで還って来た? お前なんか非女と一緒にくたばっちまえば良かったのに」

「やめてっ」



「俺はずっと苦しんできたのに、なんで何も知らないお前なんかがっ………」




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