緋女 ~前編~

「王子っ」

何だろう。幻聴がする。

レヴィアは今ケイとキスとかそれ以上とか、そういうことしてるのに。

何でこんな約束してしまったんだろう。

ケイに敵うはずなかったのに。

でも彼女は手放しがたかった。初めて僕のことをちゃんと見てくれた人だ。そう思うのも当たり前だった。

「お待たせ。ごめん、すごい待ったでしょう?」

あっ、やばい。

幻覚まで見える。

だいたい彼女がこんな土だらけな服着てるはずない。僕の想像力もそこまでだ。

でも彼女は僕の隣に座って聞く。

「怒った?」

僕になんて答えて欲しいんだろ?

でも、彼女が嫌に楽しそうなので幻覚だと思って意地悪を言った。

「待ったよ。すごく待った」

「ごめん」

そう少し不機嫌に言えば彼女は謝る。便利な妄想だ。

「思ってないでしょ」

こうなったら、言いたいこと全部言ってやる。

「いや、本当に申し訳ないと思ってるよ」

「じゃあ、なんで笑ってるの?」

「えっ………? あー、ちょっといいことがあったのかな?」

自分のことのくせに首をかしげて言う彼女は、にやにや笑いだ。


「僕のことなんかどうでもいいんだよね、レヴィアは」

「は?」

「約束してたのに来てくれなかったし」

「いや、だいぶ遅れたけど今ここにいるよ?」

妄想の彼女は僕に都合良く喋る。

「どうせ、今ケイといるんでしょ?」

「いや、ケイは中で待ってるから一緒じゃないし」

「ケイとキスした?」

なんて聞いてみたら彼女がうつむいて押し黙った。

「………レヴィア?」



「___王子、私はケイとキスしたくないからここにいるって言えばいいの?」


その絶対零度の響きに僕は我に返った。


彼女は本物だ___。


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