緋女 ~前編~
「待って!」
呼び止めた瞬間、彼女は立ち上がった。僕の顔を見ずにこう告げる。
「王子………。ごめん、なんか」
「レヴィアにどうしても聞いてほしいことがあるんだ」
そう言った僕に彼女はまた困った顔をする。さっきまで楽しそうだったのに、それを壊してしまった。
僕には彼女をあんな風に笑わせることは一生できないんだろう。
でも、せめて僕と同じだという彼女に伝えておきたいことがあった。
「聞くだけでいいから。お願い」
彼女は立ち上がったまま僕を見つめて、長い間の後に息を吐いて座った。
「王子」
「うん」
「王子と私の距離ってどれくらい?」
彼女の問いに僕は言った。
「それ、僕の話の後でいい?」
「えっ、うん。ごめん」
今日は何かと彼女は僕に謝る。それが妙に淋しい。
彼女は大切なものほど臆病になる。
大切だから言葉を選んで、たまに沈黙を貫く。人はそれを距離と勘違いするけど、僕にだってそれくらい分かった。
彼女が僕に本音を全てぶちまけることはないのだろう。
友達じゃないから、どうでもいい人だから言えた言葉もあったはずだ。
だが、彼女は友達として僕だけに言ってくれる言葉を持っているのだろうか?
なんだか、自信がない。
それでも僕は彼女への言葉のために僕は大きく息を吸った。
伝えなきゃいけない。
僕の友達である彼女。
その彼女を裏切らないために、僕はルールを犯してもそれを言わなければと思ったんだ。
「僕は本当は王子じゃないんだ」
この突然の告白に彼女は当然戸惑った。