緋女 ~前編~
「えっ」
「正確に言えば、僕は王子をやってるけど正当な血筋じゃないんだ」
「そうなの?」
彼女は把握しきれない様子で僕に言う。
僕はその全ての問いに答えるつもりだった。
「うん、僕の髪は金髪でしょ」
「そうだね」
「でも、瞳は金じゃない」
「うん、紫色」
彼女がそう言うのにうなずいた。
「金髪も金の目も、王家の証なんだ。陛下もそうだったでしょう?」
「えっ、まあそうだったかも」
彼女はあまり覚えていなさそうだったが、とりあえずうなずいた。
「僕は半分正当な血じゃないんだよ。それに、僕は陛下の役にも立たない。次に王座に座るのがこんな一人じゃ何もできない人形だったら、そりゃ嫌気もさすよ」
何と言っていいか分からないという顔の彼女に、それでも僕は伝えたいと思うことがある。
「僕は陛下と王妃が親だと思ったことも、うまくやってると思ったことも一度もない」
「王子………」
「僕は王子なんかになりたくなんかないんだ」
そして友達になってくれた彼女に、僕は本当に伝えたかったことをやっと告げる。
「だから、この結婚ないものとして考えていいよ?」
本当はもう彼女を好きになりかけている。
でもどんなに彼女が欲しくても、笑わせられない僕には隣にいる資格がない。
彼女が始めに言ったいいこと。それはたぶんケイのことだ。
もともと、彼女と結婚する資格もないんだし、彼女は僕と友達になってくれた大切な人。
今ならまだ手放せる。
王子という肩書きも彼女と結婚という甘い誘惑も。
好きになって辛くなってきている距離も。
彼女と友達ということ以外、全て。
彼女と出逢ったのも昨日だ。
今なら間に合う。
だから彼女が行ってしまう前に、彼女と僕との距離について答える前に、言わなければと思った。
「………何言ってるの」
彼女が呟くそれは、僕にとって嬉しくも悲しいものだった。