緋女 ~前編~


私は驚いて振り向くことさえできなかった。


私が振り返れないことを誤解したのか、声は続く。



「この城からの眺め、お気に召されましたか?」


落ち着いた大人の男性の低い声。

その心地のよい音の響きは心に余裕があればこそ聞き惚れたかもしれないが、あいにくそんなものはなかった。


「わたくしも好きなんですよ、この高いところからの眺めが。同じですね」


やっとそこで私は振り返る。

そして、片足を折りまるで最初からずっとそこに控えていたかのように佇む男を、私は見た。

頭が全く追いつかない。

さっきまでは気付かなかった執事服のそれと見える格好の男。

それにまず頭を捻った。

それ以外、何も簡単に認識できなかったからだ。



「…………コスプレ?」




第一声に出た私の素朴な疑問に綺麗な顔がにっこりと微笑んだ。





「レヴィア様、アホ面は引っ込めて下さって結構ですよ」




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