緋女 ~前編~

「えっと…ケイ? ちょっと苦しい」

とりあえず、離してほしいという意思表示に、彼はさらに私を抱きしめる腕を強める。

殺す気かとは思わない。

彼の本気はこんなんじゃない。

「俺のことは無視?」

いつも私の言葉を華麗に無視する彼はそう言う。

「いや、そういうわけじゃないけど……」

と言いつつ、新たに首をかしげたい気分だ。

ため口になる時は怒るってると思っていたけど、今回は少し違う。背後から抱きついてきているから、瞳は見れないけど妙に声に感情がこもってない。

いつもため口の時は少しは感情が入った声をしているのにだ。

なぜ?

彼はなんのために私にこんなことしてるの?



「ねえ、私が王子と一緒にいると都合が悪い?」



一瞬の間があった。



「___そうだと言ったら?」



そんな言葉が返ってくると思わなかった私は、抱きしめられていることも気にせず彼の方を振り返った。


顔が近い。


でも、彼のゴールドアイは私を苦しそうに見つめていた。



感情がない声で、苦しげな瞳。

それが意味するのは___



「ケイ、あなた嘘が下手ね」


その言葉に彼は目を見開いた。腕の力が弱まるのを感じて、私は彼の腕からすり抜けて切なげに笑う。



「私のことなんて道具にしか思ってないのに、とんだ優しいおバカさん」

 

だから、好きになりそうになるのを踏みとどまるの。


私も、あなたも。


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