緋女 ~前編~
___っ、痛い。
いくらベットの上とはいえ、こんな風に叩きつけるかのように、投げ出されたら腰を打つ。
「……ケイ?」
怖くはない。彼はただ苦しそう。
堕ちてくれって、私が他の誰かが好きじゃないと心配なくらい王子が好きなの?
気持ち悪いとは思わない。私もおかしいくらい母が好きだった。
でも、苦しいね。
私たちは一生、お互いを傷つけることしかできないのかも。
でも、そんなこと望んでない。
傷つけない方法はある。
「あのねー」
不自然なほどの明るい声。でも、ケイは気づかないふりをしてくれるだろう。
「心配しないで」
その次の言葉を言うには勇気がいる。
でも、いいじゃないか。
ケイの想いも、王子の傷ついた心も私が救ってあげたら、また私も別の結末という夢を見られる。
私と母がとても仲の良い、あの夢の続き。
あの日とは違う結末。
「私ね、王子よりもケイの方が好きよ?」
この時、私はすっかり忘れていた。
私に教えてくれた王子の名前を。
それが意味することを。
ケイの想いと王子の傷ついた心。
どちらも取りたいというのは、あまりにも傲慢だったんだ。
彼の複雑そうな瞳の中に残る不安と少しの満足感がちらりと覗いたのを見て、私はそんな彼を拒否するかのように瞳を閉じた。
そんなに私も誰かに想われたら___
そんなことを思いながら、不平等な世界の朝がまた来ることをまた嫌に始めた。
このまま、永遠に眠っていたい。
そんな私のまぶたに軽いキスをしたケイは、私の上から退いた。
そんなことしないで___
それは言葉にならなかった。