緋女 ~前編~
彼女が瞳を閉じてから三時間経った。ようやく規則正しい寝息がし始めたことに息を吐く。
三時間続いた狸寝入りに、俺は何をするともなくそんな彼女を眺めていた。そして、今も彼女をなんとなく見つめていた。
彼女を抱くにも、俺が王子を好きだというおかしな妄想のおかげで、それはなんの意味もない行為だった。
好きだと言っても、ろくな答えは返ってこない。
キスしても、震える手が悲しみだけを伝えてきて。
どうすれば俺が惚れているのは彼女だということを伝えられるのか、さっぱり分からなかった。
好きだとキスをすれば、女はあっさり俺を好きになるはずだった。抱いたらもう俺のもの。
なのに、どうしてこうも上手くいかないんだ?
「俺に堕ちてくれ」
そうじゃないと困るんだ。
別に好きじゃない。好きじゃないけど、好きってことにしたい。けど、本当は___王子に八つ当たりするくらいには好きなのかもしれない。
“名を与えて縛るおつもりで?”
庭を出てきた王子よりも先に、影が還ってきたから出た言葉だった。
”………ケイでも余裕なくなるんだね“
王子の言葉にカッとなった俺はありもしない嘘を付いた。
“彼女をここに連れてきたのは俺だ。感謝されてもいいと思っていたが”
“えっ”
”彼女は時間になっても俺と一緒にいたいときかなかったんだ。それを引っ張って連れてきた“
その真っ赤な嘘に純粋な王子は簡単に騙されたことは言うまでもない。