緋女 ~前編~
「……は?」
何を言われたか分からなかった。
だって知らない間にここへ来ていて、知らない男がいて、執事のコスプレしてたら、普通は驚くでしょう?
しかも初対面の人に笑顔で言われる台詞ではない。
「あっ、すみません。まだ自己紹介してませんでしたか。わたくしはロチス・ケイと申します。今後レヴィア様の世話役兼教育係をやらせて頂きますので、お見知りおきを」
「………違う」
「何がですか?」
綺麗な顔が笑っていても瞳が面倒だと言っている彼に、私は怒り半分、自嘲半分で言う。
「あなた勘違いしてない?」
そう。
さっきから感じていた最初のまともな疑問だ。
このわけの分からない男の発する言葉の中の私への呼びかけ。
「___レヴィアじゃない」
その言葉にロチス・ケイの表情は抜け落ちた。
ただお喋りなゴールドアイだけが失望と憎しみの強さを映した。
その豹変に言葉が続かない。
瞳の中で焼き付くされるかのような錯覚に陥った。
「………そうですか。ですが、とぼけたって無駄ですよ」
そう凄まれても、いったい私が何をしたっていうの?
「貴女の髪の色、白銀に一筋の金。その髪が貴女がシュティ・レヴィアであることを証明してる。間違いなく貴女は非女の娘だ」
吐き捨てるかのようにそう言った彼に、私は視界のすみに入った髪の色を認めて目を見開く。
それは日本人とはかけ離れていた___。