緋女 ~前編~
「そう、ケイもましな嘘つけるのね。で、なんだったっけ?」
自分の気持ちを誤魔化すように言ったのに、彼はその意をくんではくれなかった。
「___嘘ではないんですが」
「えっ?」
慌てた自分の声は少し高い。
ケイは深い意味もなく言った。それが分かっていても、この心臓の音。
高ぶるそれをかき消すために何か___。
そう思って口を開きかけた。だがケイがそれを見越したように先に言う。
「それに、なんだったっけと先程おっしゃりましたが、一言も聞いていなかったとは言わせませんよ」
その言葉に私の心臓がゆっくりとおさまるのを感じた。
深い意味もない。
そう再確認して。
「………最近、平和ボケしてきてるから許して」
嘘じゃないし、本当でもない言葉。
お互いにそういうこと以外は口にしなくなっていることに私はとっくに気がついている。たぶん、ケイも。
そして、それがちょうどいいんだ。
傷つくことがないから。
だから最後の一線は絶対にお互い踏まない。
それはやっと距離感が掴めたと言うべきか。でもそんなこと言ったら、王子___否、ライサーは不満そうな顔をしそうだ。
あの夜、ライサーとの星の距離の話に、今の私は反しているから。
あの夜は偉そうなことを言った。
だけど、失いたくないものに臆病になるのは当然だったんだと今は思う。
あの夜を境になんだかとても頑張ってるライサーには、申し訳ないから絶対に言わないけど、そう思ってる私がいる。
そう。
あの夜からライサーはまるで人が変わったみたいで、もう私と似てるなんて言えなかった。
ライサーは王子として正しい努力をし始めたのだ。そんな彼の庭は、代わって今はほとんど私が世話をしている。
それでも、ライサーは私との時間は作ってくれていた。
それがケイには悪いけど少し嬉しい。私にとっての慰め。
「レヴィア様っ」
また、ボーッとしていた私に叱責が飛ぶ。
「あっ、ごめん」
「………しっかりしてください。では、もう一度ご説明しますのでよく聞いていていただけますか?」
「ええ、もちろんよ」
私は笑った。