緋女 ~前編~
「えっ?」
そんなことを言われるとは少しも思ってなかった私は呆然とした。
いや、いつかはここから追い出されるとは承知していたつもり。
だけど、勉強させるためによりによって学校という場所に放り出されることは、全く予期していなかった。
「………学校って言った?」
「はい」
信じられなくて聞き返すと冷たくそう返された。だが、瞳は動揺している私を見て不思議そうにしていた。
それでも、私は確認せずにいられない。
ここは、異世界。
学校っていうものが私の知ってる学校じゃないかもしれないのだ。
「学校って、勉強の名の下に人がいっぱい押し詰められたところじゃないよね?」
希望的観測。
それを打ち砕く一言は、私を絶望の淵へと突き落とす。
「いえ、全くその通りですが」
「__ケイは、私の教育係になったんじゃなかったの?」
「わたくしよりも優秀な先生に教えていただいた方がよろしいかと」
「私が魔法使えないから?」
「………そういうことにしたければどうぞ」
ケイはそう言ったが、それはこっちの台詞だった。
「私、もっと頑張るよ?」
「………」
「絶対、ケイより魔法上手く使えるようになる」
「………」
ケイは何も言わない。
その瞳は何かを叫んでるけど、私には聞こえないの。
「___ねえ、通いたくないって言えば、ケイがずっと教えてくれるの?」
最後の抵抗に彼は沈黙を貫いた。
「………ここから通うの?」
何分彼をひたすら見つめてたのだろう?
やっと出た言葉に彼は口を開いた。
「どちらでも。学校には寮がありますから」
今はその無感情な声が腹立つ。すごくムカつく。
なんで傷つけないようお互い過ごしているのに、日に何度も泣きたくなるんだろう?
「私が選んでいいのね___」
疲れたな。
もしかしたら、彼もそう思っているのかも。
あーでも、私の存在なんて気にしないか。
王子が心配なだけかも。
今忙しいのに私にも時間を割く王子が。
そう思うとますます目頭が熱い。
「それじゃあ、寮暮らしがしてみたい」
その言葉にかろうじて彼が頷いたのは分かったが、視界が涙で歪んで瞳の色は分からなかった。
ただ、目を反らした私をずっと見つめてくる視線だけを、私は背中に感じていた。