緋女 ~前編~
いつもの庭、一番は貴方。
「レヴィアっ」
私を見て、王子___否、ライサーが駆けてくる。
「どうして先にいるのっ?」
「………たまにはライサーより早く来てみたかっただけ」
嘘だ。
ケイといるのがつらくなって、自分からケイと離れることを決意した私。
勇気を出して、ライサーといつもより早くに待ち合わせしたのだとうそぶいた。
彼の瞳は怖くて見れなかったけど、黙って私を庭に送ってくれた。
「ほんとっ?」
そんなことは知らないライサーがそう言う。思った通り嬉しそうな顔に、私はケイの苦しげな瞳を思い出して罪悪感に襲われた。
「うーん、実は言いたいことがあって」
これは嘘じゃなかった。
嫌なことは早めに終わらせたい。
「まあ、ここに座って」
「うん」
私のいつもと違う雰囲気にやっと気がついたライサーが、黙って言う通りに座る。
「あのね、私___」
「ストップっ!」
言いかけた言葉はなぜかライサーがとめる。
「えっ」
自然と出た驚きと戸惑いのそれ。だけど、ライサーは困ったように笑う。
「その話の前に聞いて欲しいことがあるんだ」
「うん?」
気は重いが、別に後回しでも良かったので頷くと、ライサーは真面目な顔を作った。
「実はね__」
そんな顔しても隠しきれない喜びに輝く瞳が、これが彼にとってとても良いニュースなのだと教えてくれる。
案の定ライサーはこう言った。
「魔法が上達したって褒められたんだ」
そういえば彼は魔力が弱いのだと出会ったあの日、言ってた。
そしてあの時は確か、庭までケイのように瞬間移動できないことを彼は謝って、私は引きずる足を隠したのだ。
「……そうなんだ。良かったね?」
前だったらこの報告に素直に喜べたが、今は笑顔がひきつってないかが心配だった。
「レヴィア?………ごめん。嬉しくないか、僕が魔法使えたところで」
ほら、いきなり弱気モードに入ったライサーは私の微妙な顔の変化にすぐ気づいてしまった。
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
慌ててそう弁解するも後の言葉が続かない。
私がライサーに劣等感を持っているなんて知られたくなかった。
ケイに想われ、魔法の習得も順調。
私はついこの間まで同じところにいたライサーが羨ましくてしょうがなかった。
ライサーの想いが叶えば叶うほど、私も夢の続きが見られるそう思ってたのに、だ。
私は口先で偉そうなことを言っていたが、実際私は卑屈で臆病な人間だった。
私が無敵なのは、誰も好きじゃないとき。
そう思ったら孤独で、無性に悲しかった。
「レヴィア」
ふいに、ライサーが私を呼んだ。
だいぶ、この名前にも慣れてきた。手放すことになればそれも、悲しいのだと思う。
でも、いったいライサーはいつから自分の名前を呼んでもらっていなかったのだろう。
そう思うと、そんな悲しみでさえ、悲劇のヒロイン気取りみたいで、自分が嫌になった。
「話したいことって?」
ライサー、その優しい問いが痛いんだ。