緋女 ~前編~
「うん、ライサー。私しばらく会えなくなりそう」
ライサーは驚いた後、淋しい顔をするだろうと思いつつ、口にした。
「えっ」
案の定、驚いた声が私の耳を打つ。
「うん、私も色々悩んだんだけど___」
「なんでっ?………僕のこと嫌いになった?」
私の話を遮ったライサーは、私に話を促した余裕のある人ではなくなっていた。
出会った時と同じ、今にも壊れてしまいそうな儚さ。揺れる瞳は、溢れてしまいそうだ。
その変化に私はどうしたものかと思う。
「いや、そういうわけじゃ」
とりあえず否定するも、彼の方は必死だった。
「じゃあ、なんで?」
強く、でもすがるような声に、私の良心が正直に答えろと言う。
だけど好きになりかけているケイから逃げるため、なんて言えるわけない。
ライサーは私に名を教えてくれた。
どういう意味かはもう分かってる。
それに、このことがケイにバレたら私は今度こそ絞め殺されるだろう。
死ぬのは怖くない。でも、ケイはまた苦しげな顔をするに決まってる。殺すのは自分のくせにそういうところで悪になりきれず、優しい。
嫌いになれたら楽なのに。
「………ライサーに追いつくためかな」
私が得意の、本当でも嘘でもない言葉をライサーに贈る。
だがそれはケイを想って言ったこと。
でも何が気に入らなかったのか、ライサーは傷ついた瞳で言う。
「嘘だっ。レヴィアが僕に追いつく?………僕がなんでこんなに頑張ってると思ってるの?」
なんで私が責められているんだろうか。
「もともと頑張るのは得意じゃない」
気がついた時には冷たい声が出ていた。しまったと思った時にはライサーはうつむいていて、その隠した顔は安易に想像がつく。
「ごめん。今のなし__」
「僕は頑張るの苦手だよ。でもさ、レヴィアに振り向いて欲しいから頑張れたんだよ?」
「うん、__ごめん」
その言葉にライサーの皮肉な笑い声が庭に広がった。
「僕はレヴィアに謝ってもらいたいわけじゃないんだけど、駄目だね」
「ライサー………」
「レヴィアはさ、ケイが好きなの?」
「えっ?」
その言葉は全く予想していなかった。
ケイの話をライサーにしたことは一度もない。私といるときのケイくらいは独り占めしたかったから。
なのに、バレていることってある?
いや、あり得ない。
ライサーが聞いているのはそういう好きじゃない。
だから、私は安心して嘘をついた。
「もちろん、好きよ。お兄さんみたいで__」
「じゃあ、レヴィアはお兄さんとキスするの?」
またも、遮られた言葉に今度こそ私は焦った。
どうして知ってるの………?