緋女 ~前編~
「……そっか。良かった」
知らないうちにその言葉が口から出ていた。
その呟きに、ケイが冷たい目でこちらを見たのは気配で分かる。
「私が醜いのは今に始まったことじゃないんだから、そんなに責めるように見ないでよ」
それに答えはない。
「で、なんのために私を連れ出したの?」
その時、ライサーが知らないスーツの男と少し話して庭から立ち去るのが見えた。
「__あの男が気になりますか?」
「えっ?……あー、まぁね。王子には私しかいないって思い上がってただけに、どんな人なのかは少し気になるかも」
悪い人じゃないといいなとか、本気で思ってくれてる人がいいとか、色々抱えすぎる性格を分かってあげてほしいとか。
つまりは、私じゃない人ってことなんだけど。
「ライサーの本気に触れた途端に私が逃げ出した分、別のすごくいい人がライサーの一番になってくれればいいと思ってるから」
裏を返せばそれは
ケイじゃなくてあの迎えにきた人がそうであって欲しかったという願望。
「レヴィア様……」
「酷いでしょ。今なら暴言いっぱい吐いてくれても怒んないわよ?」
むしろ責めてくれた方が、楽。
ライサーは優しい。
その優しさがいつも痛い。
私がいくら嫉妬しても、羨んでも、___一番じゃないって突き放しても、優しい。
だから私はライサーに魔法が使えないことを相談しようと思い到った。
少し意地悪。
ライサーが優秀になっていけばその分私が苦しくなるのだと叫び、私を早く嫌いになって欲しかった。
それほど、想っているのに想われないライサーが嫌。
私の二の舞になるのだけは見たくなかった。
よりによって、私の手で。
「………怒らないとおっしゃりましたね?」
不意ケイがそう問う。
私はその言葉ににこりと微笑んだ。
「言ったわね」
「じゃあ、一言」
「ええ」
その声に彼のスイッチが入れ替わったのが分かる。
「お前は逃げたんじゃねぇ」