緋女 ~前編~


「………」

彼が黙った。

私はその沈黙がをどれくらい耐えられたのだろうか。

たぶん、ほんの数秒しか待てなかったはずだ。


「あー、これも一生くれないものだったか」

「………」

無理矢理笑う私をケイは黙って見ている。

「そんなに見つめられるとドキドキするから、やめて」

そんなことを冗談めかして言うが、またケイに期待していた自分を見つけて、本当は自己嫌悪と羞恥心でいっぱいだった。

そんな私は滑稽過ぎるだろう。

彼の瞳が怖くて見れない。



だからだろう。



「……ずっと見つめていれば、お前は俺に堕ちるのか?」



その言葉は風がいたずらに運んだ幻聴かと思って、反応できなかった。



「お前が俺に堕ちてるというなら、俺はお前の敵にはならないと誓おう」



なんて言い草。

私よりもっと彼は酷かった。

私の全てをあげても、殺すのを惜しむ程度のケイにしかならない。

そう言われたも同然の言葉。



期待しないって、いったいどこまで?

私は笑った。

お兄ちゃんみたいとか、そんなんで誤魔化していた自分が悲しい。



私はケイが敵じゃないことを喜ばないといけなかったんだ。



「__堕ちてるよ」

その絞り出した言葉に彼の瞳が見開かれたのを私は知らない。

ただ、こんな残酷な悪魔に私は全てをあげてしまった。


一番の好き。


それは私の十七年を支えてきたものの全て。


「じゃあ、約束する。俺はお前の敵にはならない」



私の手にはもう彼のこの言葉しか残ってなかった。


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