緋女 ~前編~
「どういうこと?」
私は持っていたスプーンを置く。食べる気は完全に失せていた。
「それは……明日にしましょう」
そう言う、もとの口調に戻ってしまった彼を私は睨み付ける。
期待は、してない。
だけど支配されるなんて聞いてないし、納得もいかなかった。
それが一番をあげた相手でも。
「なんで今じゃいけないの?」
「貴女はいつも答えを急ぎますね」
ため息まじりの声音が嫌いだ。見下されている、そんな気分。
「悪い?」
「いえ、それもわたくしのせいですから」
「どういう意味?」
「レヴィア様」
その低く叱責する彼に私は黙った。
「明日です。いいですね」
仕方なく、私は結局うなずく。
だけど、これだけは聞いて置きたかった。
「___ライサーには会えないの?」
その問いの答えが返るには、少し時間がかかった。
「わたくしが貴女を王子がいる庭へ送ることはもうありません」
「………」
その言葉に私は何も言えなくなった。
ただただ実感する。
彼に信用されていない。
今日の朝は確かにあったはずの信頼。
だから彼の大事な王子に会うことを朝まで許されていた。だが、この瞬間からそれは許されないものとなってしまっていた。
それが証拠。
私が王子を傷つけたという揺るがぬ証拠。
「ですが」
気まぐれのように彼は言い足した。
「貴女が王子に会うことを望むならば、それを阻むことはわたくしにも出来ないと思います」
その言葉に私は何か言おうとしたが、それは次の彼の台詞で忘れてしまった。
彼の気まぐれは続く。
「深非の君の娘ですから」
それは、私がこの二週間考えないようにしていたワードだった。