緋女 ~前編~
「__私は非女の娘なんだと思っていたけど」
私はシュティ・レヴィアの偽。
非女は本物のシュティ・レヴィアの母であって、私の母ではない。
それでも、ケイが娘でさえ殺したくなってしまうような人物が私の母であることになっている事実は、私を苦しめていた。
どんなことをされたのかとか、どこに今はいるのかとか、いつかは彼女に会わなければいけないのかとか、色々考えることはあった。
だが、いずれにしてもケイに彼女のことを聞くのははばかられた。
それに彼女の話題が出るほど、本物のシュティ・レヴィアではないことが露見されて、ここから放り出されると思った。
そうなったらこちらで私が生きられる可能性はゼロに等しくなる。
死ぬのは怖くない。
けど今、惜しくもない命ではなかった。
「そうですね。貴女の母君は晩年は俗に非女と呼ばれていましたが、元々は違う通り名があったんですよ」
通り名なんて気になりもしなかった。
ただひとつのことに驚いた。
「………死んでるの?」
晩年、と彼は言った。
「___それも知らずにここへ来たのか?」
驚愕の顔をした彼に私は首をかしげた。
その私を信じられないものでも見るかのように、ぼーっとしたまま彼は続きを口にする。
「彼女は___お前が還った日に亡くなっているはずだ」
私の母ではないから、当然のこと私は亡くなった日がいつだろうと気にならなかった。
彼はこれもまた明日と言って、私に寝るよう言った。
でも、その日の夢はとてもじゃないが良いとは言えないものだった。
後味の悪い目覚め。
まだ、辺りは暗い。