緋女 ~前編~
押し潰されそうなほどの沈黙の後、彼は言った。
「………シュティ・レヴィアじゃないなら、誰なんだよ?」
またも無視した私の言葉。
だけどそれを指摘するには異様な雰囲気。
腹が立つが、私は親切にもう一度答えてあげることにした。
答えようもない酷い質問だとしても。
「レヴィアじゃない人」
だが、その誠意も彼には届かないらしい。その瞳の感情に任せたまま、その質問を繰り返す。
「なめてんのかよ。お前の名前は何だって聞いてんだ」
私の中で考えることをやめていたことが、一気に溢れ出すのを感じた。
歯止めがきかない感情の濁流にのまれて、次から次へと言葉が出る。
「なめてなんかない。なめてるのはそっちでしょ? さっきから聞いてれば好き放題言って失礼な」
いきなり怒り出すとは思ってなかっただろう。私も思ってなかった。
十七年間一度も怒ったことがない私が、誰かに、しかもよく分からない男に怒る日なんて、私が一番驚きなのだ。
「私の名前はね___」