緋女 ~前編~
「……強いならいいじゃない?」
驚いた顔でそう言う彼女。
「いえ、駄目です」
「は?」
「その理由は後にしましょう」
「結局、理由教えてくれないんじゃないっ」
その台詞に考える。
理由になってなかっただろうか?
「……確かに、そうなってしまいましたね」
「……もういい。で、解禁するんでしょ?さっさと終わらせましょう」
「レヴィア様」
「なによ?まだ何かあるの?」
「レヴィア様、___何かございましたか?」
ただの勘だ。確証はない。
でも、彼女の機嫌がすこぶる悪いのは俺のせいだけではないような気がしてきた。
案の定、彼女は静かに聞いてきた。
「………私、寝言かなんか言ってたの?」
彼女の寝言はいつも通りだった。
初日は気がつかなかったが、毎日同じ言葉を何度となく繰り返している。
「___最近、よく夢を見るようになったんだけど」
俺の沈黙を肯定に捉えて語り出した彼女。
その夢の内容を俺はほぼ知っているように思ったが、黙っておくことにした。
彼女が喋りたいのなら、喋ればいい。
そうやって、何を言ってもなんだかんだ彼女も俺の言葉を待ってくれているのを俺は知っている。
「ずっと、あの日の夢なの」
あの日___
「私以外は誰もいなくなったあの日」
自嘲するような言い方。
彼女は瞳を閉じて、夢の続きの内容をゆっくりほどいていく。
「でも、今日は少し違ったの」